【素材研究室①-3】GORE-TEXの話 ~そしてPRODUCTSへ~
2018/12/17 18:25
待ちに待った寒波到来!
やっと冬の空気になりましたね~(^^)b
さて、今回は素材研究室のGORE-TEX編の最終話をお送りいたします。
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3.GORE-TEXプロダクトに関して
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(* 1と2に関しては番号をクリックするとページが移行します。)
今回は【GORE-TEX プロダクトに関して】で御座います。
前回に比べれば長くならないと思うのですが…(←結局長い!前回よりも)
お時間がある時にお付き合いくださいませ。
今回はこんな内容でいこうと思います↓↓↓
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・GORE-TEXの考える防水
・GOREの製品テストに関して
・GOREの種類と使い分け
・GORE-TEXと地球の未来
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《GORE-TEXの考える防水》
まずはGORE-TEXの考える【防水】の定義から始めましょう。
一般論で【防水】といえば、『水を通さないもの(素材・機能)』となります。
しかしGOREの認識は少し違います。
防水=『水を通さないもの』
ではなく、
防水=『身体が濡れないこと』
となります。
ん~同じことのような…少し違うような…。
この微妙な認識の違いがプロダクトに影響しているのです。
『水を通さないもの』と『身体が濡れないこと』の違い。
どうでしょう?
あっっとヒラメキマーク出ましたか?
…。
…。
あっっとヒラメキマーク出ましたか?(←しつこい)
…。
…。
はい。そろそろお答えいたしましょう。
『水を通さないもの』は上記した防水の素材についてのことです。
『身体を濡らさないこと』は防水の構造であるということ。
GORE-TEX PRODUCTSとは、防水素材・構造も持った製品であるということです。
この構造というのは、3レイヤー・2レイヤーという話では無く、裁断や縫製にまで言及するということです。
そうなんです。
ノースフェイスのようなアウトドアブランドが「こんなん作りたいんだけど~」と言っても、
「絶対に身体が濡れないように作ってね」と言われます。
「こんな感じでどう?」と持ってきても、
「これじゃダメだね。」とつき返されることも。
この製品化までのテストが厳しいのです…。
《GOREの製品テストに関して》
GORE-TEXの製品テストは大きくわけると3段階あります。
① ファブリックテスト
GOREメンブレンを挟んだ生地の磨耗性や引き裂き強度に対するテスト。
軽量化といってメンブレンのみにしたいとかはここではじかれます。
GOREはこの時点で相当厳しいようです。
② ヒューマンテスト
合格した生地を使いサンプル品を製作。実際に人に着せて実験をします。
代表的なのが「シャワーテスト」。身体が濡れない構造かどうかを見極めます。
その他、実際に着てランニングマシーンを走ってもらい、蒸れ感や薄着のときの着心地をテストしたりします。
③ フィールドテスト
実験室での一連のテストが通過出来たら、ここからは実際にガイドさんや一流のプレーヤーに使って頂きその使用感を聞きます。
当然、ここからがまたトライ&エラーの繰り返し…。
シルエットの直しはいつものこと。構造面でのプラス・マイナス…そもそも生地の選び直し…。
生地の選び直しだとまた始めからのテストです。
「もう少し薄いほうが…」と言われた日には魂抜けますね。
本当に、いつ終わるの?って思うくらい時間が掛かります。
今、店頭に並んでいる商品は全てこういったテストをクリアし、このタグが下がっているのです。
ちなみにこの製品化するにあたり、縫製する工場もゴア社が認定した工場じゃないと作れないという…。
シームテープを貼る技術者も当然専任がいます。
アウトドアのジャケットに関して言えば、②の構造に対するテストを通過する為に省くことができないパーツが有ります。
何だと思いますか?
ヒント:これを省くとシャワーテストが…。
…。
…。
あっっとヒラメキマーク出ましたか?
…。
…。
ハイ…正解は【フード】でした!
ナナミカが出しているGOREのチェスターコートのようにタウン使用が限定されれば問題無いようですが、
アウトドア(登山・キャンプ・自転車等)での使用が考えられるジャケットにはこの【フード】が必須になります。
そうですね、無ければテストでびしょびしょになります。
GORE-TEX使ってる意味ありますか?って話になってしまいます。
今年はお店にイイ例がありますので、ご紹介しましょう。
ハイ。こちらはノースフェイスのGTX INSULATION HOODIE
品番:NP61802 ¥46,440(税込)
これに対し、GTX INSULATION JACKET
品番:NP61803 ¥45,360(税込)という商品があります。
どちらもGOREを使い、薄い中綿が入った、暖かい今年の冬には使いやすそうなジャケットなのですが、
注目すべきはココ↓
JACKET(NP61803)のほうは、フードが内臓型となっています。
先にHOODIE(NP61802)があるのに、
正直こっちフードいるのかね?と思ってしまいました。
が…。
…。
はい。そうなんです。
②のヒューマンテストで「絶対に濡らさない」ために必要だったのです…。
納得。
えぇ、もう「これフードいらなくね?」とか二度と言いません。
色々なメーカーさんにお話を聞きますが、この製品に対するテストは相当厳しいようです。
でも、それが圧倒的耐久性とその信用に繋がるのでしょう。
《GOREの種類と使い分け》
そんな厳しいテストを通過して並んでいるGORE-TEX PRODUCTS。
これもそう。
これも。
これもです。
はい。タグの下に何か書いてますね…。
何も無いやつ。『ACTIVE』、『PRO』と。
そうなんです!GORE-TEXにも種類があります!
この種類とは「表地+メンブレン+裏地」の素材や構造によって区別されています。
一般的な3レイヤーの構造をおさらいしましょう。
この構造を基本にお話を進めます。
まず、何も書いていなかったもの。
これは中を見てみると、『Pacliteプロダクトテクノロジー』と書いてます。
以前は『PACLITE』という種類として存在しておりましたが、
現在の括りでは裏地の一種とされています。C-KNITの仲間です。
『C-KNIT』もPROやACTIVEのようにタグの表に『C-KNIT』と記載されることはありません。
Pacliteの特徴はこのグレーの裏地。
これはメンブレンに対し、生地を貼らず耐久性が上がる加工がされたものです。
生地有りを3レイヤーというのに対し、こちらは2.5レイヤーと言ったりします。
生地を貼らない分、しなやかな質感と携行性の良さが売りですね。
後、比較的安価なので、初めてのGORE-TEXとしてもオススメです。
続きまして、『ACTIVE』。
こう書いているものを『アクティブシェル』と言います。
アクティブと書かれているだけあり、RUNや自転車等の大汗シチュエーション向き。
GORE-TEXプロダクトの中で最軽量の3レイヤーです。
表地は13~30Dという薄い生地で作られ、詳しくは書かれていませんが、新開発された極薄メンブレンを使用しているとのこと。
軽さを出すだけなら裏地はPacliteでも良さそうなんですけど、ここは着心地も大事。
Pacliteは汗でべたつく印象…。3D加工されている2.5レイヤーはまだ良いですが、やはり3レイヤーが快適。
アクティブシェルは軽さとその透湿性の高さが売り。
全体的に薄くなるので、15kg~を背負うような縦走登山は不向き。
耐久性は少し落ちます。
ですので、荷物が重くならないトレランや自転車だと大活躍します。
冬場のBCスキーなどにもオススメされてます。
さらに透湿性を高くした『シェイクドライ』という表地無しバージョンはもはやザックを背負わないで使って頂きたいくらい。
前回の透湿性の回で紹介しましたが、透湿性は群を抜いてます。
やはり問題は耐久性。
裏地はマイクログリッドバッカーで耐久性を出しても外側は…。(マイクログリッドバッカーについては後ほど)
Pacliteをひっくり返したような見た目もインパクト大!(←秀山荘では対象商品が無いので写真なし…。)
ザックを背負わないで使ってってどういうことかと言うと…。
ザックを背負った上から着てくださいということです。
詳しくは以前掲載したブログのMHWのリロイジャケットのお話を参考にしてみて下さい。
ザックの上から着れるモデルの話で御座います。↓↓↓
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★秀山荘ブログ★ マウンテンハードウェアのリロイジャケットが良さそうな件。
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そして『PRO』。
こちらは『プロシェル』と言います。
何がプロかって話になりますが、このプロシェルの売りは防水透湿ウェアで最強とも言える耐久性。
表地は40D以上という決まりがあり、メンブレンも【多層構造ePTFEを使用】と書かれております。
只今、特許出願中のようで詳しいことは書いてませんが、多層っていうんですからePTFEが重なっているんでしょう!
そして裏地は先程少し登場した【マイクログリッドバッカー】を採用。
このマイクログリッドバッカーはすでに特許を取得したものです。
低デニール低密度で織られている生地でして、軽さ・高い透湿性・耐磨耗性・耐スナッグ性を兼ねそろえております。
革新的なのはこのマイクログリッドバッカーが「織物」であるということ。
生地(布)にする以上、糸は必ず「織る」か「編む」という方法が用いられます。
「織る」というと着物やカーペットのように、グッと詰めて強い生地を作ろうとします。
「編む」というと、マフラーのように穴が大きめでふわっとした質感に仕上がります。
単純に透湿性の話をすれば「編み物」のほうがはるかに透湿します。そして質感がしなやかです。
GOREではC-KNITがこの「編み物」の代表となっています。KNIT(ニット)って書いてますしね。
しかし、「耐久性」を問われた場合、断然「織物」のほうが上になります。てぬぐいとかのイメージですね。
マイクログリッドバッカーはこの織りの技術を低密度で仕上げることで高透湿を実現させました。
そんな厚手の表地・多層構造ePTFE・耐久性の高いマイクログリッドバッカーで作られるプロシェル。
これは最強ですね。
弱点があるとすれば…ゴワゴワな質感くらいかな?そりゃ収納性も良くないですが…。
全体的に硬く伸びにくいので、裁断やシルエットがまた重要。
ユーザーがどういう動きを求めるかを研究しないと「動きにくい」で終わってしまいます。
ノースフェイスみたいにモーションセンサー付けてテストを繰り返して作ればそんな問題も解消されるかと。
プロシェルは「どんな悪天候でも耐えられるように」というコンセプトで作られています。
特に冬場はプロシェルの需要があがりますが、耐久性に加え大事な要素が【保温性】。
GOREに保温性?と疑問を持たれるかもしれませんが、
通気性を謳うタイプと比べて圧倒的にウェア内の熱が逃げにくいのです。
これはGOREの透湿の仕組みでお話しましたが、ある程度ウェア内の温度・湿度が上がるまで透湿しないということが関係します。
着た瞬間から透湿をする通気性モデルはウェア内に熱を留める能力が高くありません。
つまり行動中はいいのですが、止まると冷えるのが早いです。
それに比べGOREはベンチレーションを開けない限り熱を放出しにくいのです。
透湿性とうまく付き合うというのはこういう意識も必要です。
「GOREは防水性高いけど、冬はそんなに防水性いらないんじゃない?雨じゃなくて雪だし。」
という会話はお店でもよくします。
実際、防水性に限って言えばそんなに高い必要な無いと思いますが、
熱を調節する機能はGOREが長けているのですよ。
GOREのプロシェルは厳冬期の過酷な状況を打破するために本当に心強い作りをしています。
私も夏シェルでしくじってから、冬用のプロシェルを用意しましたが、
蔵王でくらった山頂の暴風雪も何のその。
スノーボードで降りていたのですが、風が強すぎて止まりかける…。
視界も悪いし、風が強ければ足元はアイスバーン。
転びたくないので慎重に滑りました。
インナーはフリースと呼べる程厚さの無いものをベースに重ねただけでシェル含め3枚のレイヤード。
それでも高い防風性能により『寒さ』が入ってこない。
あの時はプロシェル凄いな~と本当に思いましたね。
それ以来、雪山登山もスノーボードもプロシェルの1択。
温度調節のしやすさと動きやすさは文句なしです。
素材はほとんど伸びませんが、どのブランドもそれを知って作るので、
特に動きにくいと感じたことはありません。
収納性が悪いとは言え、一般的なスキーウェアと比べれば圧倒的に嵩張りませんし…
「もっと早くから使っていれば良かった」と思うほど、
私自身は、GORE-TEX PRODUCTSを『信用』し、特にプロシェルには『全幅の信頼』を置いています。
雪が雨に変わろうが、雨が雪になろうが、風が吹こうが、何しようが…
本当に頼りになるジャケットと山を共にできて良かった。
着るだけで不安が1つ消える。(←これは言い過ぎかな?笑)
冬用のシェルは各ブランドが非常にたくさんの商品を出しておりますが、
GOREのプロシェルを使ったジャケットは必ず選択肢の中に入れておいたほうがいいと思います。
そんなGORE-TEX PRODUCTSにも寿命がきます…。
悲しいですよね。
ePTFE自体は非常に強い素材なのですが、
生地を圧着する、シームテープを貼るということにより、
まずはシームテープがダメになります。
↑こういう状態ですね。(写真は私のパックライトさん)
テント等にも起こりえることですが、【加水分解】です。
このテープがダメになると水分や汚れが生地同士の隙間に入り、
今度は生地が剥離したような状態になります。
そうなるともうダメです。
ダメです。というのはシームを貼り直してもあまり意味が無いということ。
貼り直す前に、古いシームを全部剥がさないといけないというのがまず無理…。
無理に剥がすと生地を傷めますし。
ものすごく大変な作業になります。
基本的にシーム剥がれはメーカーも受け付けてくれません。
仮にやっても修理費用が万単位なので、買い替えを勧められます。
…GOREの寿命の目安としてはシームテープが剥がれてきたかどうか。
これは使い方やメンテナンスの頻度によって、
5年の人もいたり、10年経っても大丈夫な人もいます。
10年経っても大丈夫というのはGOREではよく聞きますが、
PU系のシェルはなかなか10年以上というのは聞かないですね~。
『GOREは長持ち』って昔から言われてますが、本当にそうなんです。
それは次のお話にも通ずる部分がありまして…。
《最終章~GORE-TEXと地球の未来》
タイトルが壮大!
そんなに大きな話をするつもりでは無いのですが、
GOREが考える未来のお話を最後にしましょう。
ここでお話する『未来』というのは環境問題についてです。
GORE-TEXが環境に対するダメージを最小限にしたいと考えた結果、
その答えがこの『長持ちする』ということ。
最大限に製品の寿命を延ばすことを考え抜いてできたのがこのGORE-TEXなのです。
【長持ちするものが結果的に環境にやさしい。】
単純明快!
非常にわかりやすいですね!!!
大量に作られ消費されるものは、それだけ多くの原料が必要になります。
当然エネルギーも使われます。
家のクローゼットにTシャツのようにGOREのジャケットが有りますか?
まずそんな人いないですよね…。
「GOREのジャケットって値段が高くてね~」とよく言われます…
私も安いものだと思ったことはありません(-.-;)
それは【沢山作りたくない】と【大事に使って欲しい】ということ。
そりゃ大事に使いますよね。
安くても新品なら2万円~3万円はしますし。
冬用なら5万円以上が普通のようなものですから。
「気に入らなきゃ来年また買えばいいや」ってならないですよね。
それでいいのです。
まぁ毎年買っていただいてもいいのですが…(←お店の本音)
登山靴もウェアも一緒に山に登る仲間と同じくらい
【大切な存在】です。
私達がこの先も山登りを通し、人生を豊かにしていきたいと思うのであれば、
今持っている道具を少しでも長く使ってあげること。
それが今できる最善。
汚れたら洗ってあげましょう。
壊れたら直してあげましょう。
無事に下山できたら「お疲れ様」と一声掛けてあげましょう。
そしてまた「今日も宜しく」と踏み出す一歩。
その一歩一歩が目指すべき山頂へと、
その道具を大切にする気持ちは、より良い地球の未来へと繋がっていくのです。
(なんだか話がでかくなったな…)
先程紹介したMHW(マウンテンハードウェア)のシームがダメになったパックライトシェルですが、
あんな風になっても捨てることが出来ず、今は沢登りで使ってます。(←ただ捨てられないだけの人種)
…
【皆様、道具は大切に。】
…
…
そろそろ終わりにしましょうか?
…
…
と、そんなGORE-TEXのお話。
いかがでしたか?
全3話、毎回長文失礼致しました。
最後までお付き合い頂きました皆々様、本当に有難う御座います。m(__)m
素材研究室ではこれからもその素材を様々な視点からアプローチし、
皆様にお届けできたらと思います。
次回はナイロンとかポリエステルとかダイニーマみたいなもっと基本の基のお話にするか…。
NEOSHELLやエバーブレスみたいなPU系多孔質防水素材の話にするか…
ちょっと悩んでおりまして(^^;)
結果的にはどちらもお届けすることになりますがね(笑)
お楽しみに~…とは言いにくい…
どうぞまたお時間がある時にお付き合いくださいませ♪
それではまた(^^)/
-MN-
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